60歳を過ぎて突然発症した不眠症とうつ症状

60歳を過ぎて突然発症した不眠症とうつ症状

しっかり眠れるようになり、不安感も軽減!

60代男性
来院に至った経緯
仕事は理髪店とペットトリマー店を自営で30年以上続けてきた。1日中立ち仕事をしながら細かい作業を行うことが当たり前の生活だったが、60歳を過ぎた頃から、これまで感じたことのない得体の知れない不安感に襲われるようになった。

次第に気分の落ち込みが激しくなり、病院を受診すると「うつ病」と診断された。それ以来、ますます考え込むことが多くなり、不眠症に悩まされるようになった。

それまでどれほど体調が悪くても眠れないことはなかったが、診断を受けてからは夜になると「また眠れなかったらどうしよう」という不安が募り、その不安が原因でさらに眠れなくなるという悪循環に陥った。睡眠薬を処方されたが、飲んでも十分な睡眠がとれるわけではなく、日中の疲労感だけが増していった。

20年以上前から、仕事が忙しくなると目の疲れがひどくなり、それに伴って頭痛を感じることがあったが、当時は頭痛薬を飲めば治まる程度だったので、特に気にしていなかった。しかし、年齢とともに疲労の回復が遅くなり、頭痛の頻度も増えてきた。また、血圧も高めになり、病院では上140/下110mmHgと指摘され、降圧剤を処方されて長年服用を続けていた。

体のケアについては、職業柄、中腰の姿勢を取ることが多かったため、腰痛を感じることはあったが、「仕事を続ける上で仕方のないもの」と考え、特に治療を受けることはなかった。

うつ病と診断されてから、精神的な不調が続くだけでなく、体全体の調子も悪化してきたため、整体や接骨院、針鍼灸院などさまざまな治療を試すようになった。しかし、どの治療を受けても症状の改善が見られず、「本当に良くなるのだろうか?」という不安ばかりが募っていった。

そんな時、親戚から「カイロプラクティックを受けたら体調が良くなった」という話を聞いた。これまで整体や鍼治療は試したことがあったが、カイロプラクティックは受けたことがなかった。今まで試したどの治療でも変化がなかったため、最後の手段として一度受けてみようと決意し、当院に来院された。


【神奈川県藤沢市から来院】
初診の状態
  • 01

    第一頸椎左横突起にスポンジ状の浮腫

  • 02

    頸部胸鎖乳突筋(特に左側)の過緊張

  • 03

    右仙骨翼にスポンジ状の浮腫

経過と内容
初診時の状態では、右の仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、上部頸椎と骨盤部に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また第一頸椎左横突起と右仙骨翼に強い浮腫が確認され、頚部胸鎖乳突筋(特に左側)と腰部起立筋は過緊張の状態であった。

レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD3レベルで重度の骨盤の傾きや過前弯で反り腰が確認された。首の椎間板の段階は慢性的なD6レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっており、激しい椎骨の変性が認められた。

初期集中期の段階では週3回のケアを提示したが、仕事の関係で週1回のケアから開始した。

【3週目】(4回目のアジャストメント)
血圧の値が上138/下90と、特に下の数値が安定し始めた。また、左後頭部にあったしこりのような浮腫感が顕著に減少し、触れた際の違和感が軽減された。

【10週目】(11回目のアジャストメント)
睡眠の質に明らかな改善が見られた。これまで寝つきが悪く、何度も目を覚ましていたが、スムーズに眠れるようになり、夜中に目を覚ます回数も大幅に減少した。また、長年感じていた目の疲れも軽減し、頭痛の頻度も目に見えて減った。

【22週目】(23回目のアジャストメント)
睡眠のリズムが完全に安定し、以前と同じように自然に眠れるようになった。朝の目覚めも良くなり、寝起きに体がしっかりと回復しているのを実感できるようになった。また、これまで説明のつかない漠然とした不安感に悩まされていたが、その感覚もほとんど感じなくなり、精神的にも安定してきた。

現在は、ほとんどの症状が落ち着いたが、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けている。

考察
今回のうつ病、不安感、不眠症、眼精疲労、頭痛、高血圧(上140/下110)の主な原因は、骨盤部と上部頸椎にサブラクセーション(神経機能の障害)があったことによって、副交感神経の働きが抑制され、交感神経が過剰に優位となり、自律神経のバランスが乱れてしまったことにあると考えられる。

人間の精神状態は、ホルモンバランスに大きく左右されるが、特にうつ病や不安感には「セロトニン」の分泌が深く関係している。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神を安定させる作用があるが、その総量の約90%以上が腸で分泌されることが知られている。

腸は自律神経の影響を非常に受けやすい臓器であり、交感神経が過剰に働くと腸の蠕動運動が低下し、セロトニンの分泌が正常に行われなくなる可能性がある。また、セロトニンの約2%は脳内で分泌されるが、このわずか2%のセロトニンが精神状態を大きく左右することが近年の研究で分かってきた。

脳にとって最も大きなストレスは、「体からの情報が正しく届かないこと」である。サブラクセーションによって神経の流れが遮断されることで、脳が過剰なストレスを受け、その影響でセロトニンの分泌が低下し、精神的な不安感やうつ状態を引き起こしていた可能性が高い。

また、今回のケースでは不眠症や拡張期高血圧(下の数値が高い)といった症状も見られたが、これらは交感神経が過剰に働いている人に典型的に現れる特徴である。交感神経が優位な状態が長期間続くと、副交感神経のスイッチが適切に入らなくなり、結果として「夜になってもリラックスできず、眠れない」「寝ても途中で何度も目が覚める」といった不眠症の典型的な症状につながっていたと考えられる。

さらに、交感神経が過剰に優位になることで、血管の収縮が促進され、血圧が上昇しやすくなる。特に拡張期高血圧(下の値が高い状態)は、交感神経が過度に活性化し、末梢血管が持続的に収縮していることで起こるとされており、今回のケースでも交感神経の過剰な働きが血圧の異常に関与していた可能性が高い。

施術の経過からも分かるように、うつ病、不眠症、不安感、眼精疲労、高血圧(上140/下110)といった明らかに自律神経の問題が関与している症状が多く見られたこと、そして検査によって骨盤部と上部頸椎に強い反応が出ていたことから、施術では副交感神経を正常化することに重点を置き、ターゲットを絞ったアプローチを続けた。

結果として、交感神経の過剰な働きを抑え、副交感神経の働きを回復させることができたため、睡眠の質が向上し、血圧が安定し、不安感やうつ症状が軽減されたと考えられる。

この症例からも分かるように、あちこち手当たり次第に施術するのではなく、神経系の働きを正確に評価し、最も負担がかかっている部位に対して的確にアプローチすることが重要である。今回のケースでは、神経系を絞ってアプローチしたことで、短期間での改善が見られたことからも、正しい診断と施術の方向性がいかに重要であるかが示された症例となった。
60歳を過ぎて突然発症した不眠症とうつ症状
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前田 一真

執筆者前田 一真

神奈川県藤沢市出身。1972年に塩川満章D.C.が開院した銀座の塩川カイロプラクティック治療室に内弟子として入る。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。また日本で最も歴史あるカイロプラクティック学校シオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。2023年5月に地元である藤沢の地で、カイロプラクティックの最前線である塩川カイロプラクティック治療室で学んだ本物のカイロプラクティックを提供する院を実現するため、【前田カイロプラクティック藤沢院】を開院。

笑顔溢れ、心豊かに、幸せな毎日をサポートできるようにカイロプラクターとして尽力している。またシオカワグループの一員として、感謝・感動・希望に溢れる社会を目指している。

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